爆音がなま暖かい空気をつんざく。新年を祝う花火が上がりだした。寒くない正月は何年いても慣れないが、風情なく連打させる花火はもっと慣れない。すざましい爆発音とカラフルな光の舞は「昨年のことはこれでおしまい、忘れて、帳消し、マイペンライ(問題ない)」と叫んでいるようだ。「ドドドーン」と、一段と大きな爆音がした。見上げれば隣のビルの住人がベランダから花火を打ち上げた。あんな高層階で打ち上げ花火っていいのだろうか。すざましい地鳴り音はガス爆発でもビル倒壊でもテロでもおかしくないが、ここではそれもマイペンライなのだ。

南国暮らしでもお正月にはおせちとお雑煮を食べてる。しかし気候というというものは味覚を変えるようだ。私の作るおせちも随分変わった。ココナッツミルクで煮付けた魚、蒸しナスとコリアンダーの唐辛子の効いた酢の物、マンゴーの白和えと南国仕様のものが形ばかりのお重に入り、あとはお雑煮というのがここ数年のスタイルだ。

ある時、餅好きを自称するタイ人が、おいしい餅の作り方を教えてくれといってきた。餅と聞いた途端、催眠術にでもかかったように日本人のスイッチが入ってしまい、まあよく説明できるねというほど、たどたどしい英語で語った。「……それを臼にあけて、熱いうちに杵でつくのよ」と話がそこまで来て気がついた。そういう要望ではなく、バンコクでタイ人ができる餅の作り方を聞きに来たのだ。

日本の餅の存在はマンガやアニメで知れわたっている。日本のマンガの影響力は本当にすごい。お花見も、弁当も、団子も、お茶も全部マンガで知ったらしい。

黄色のエプロンをしている私のことをドラミちゃんみたいといったタイ人もいた。しかし味までは想像でしかない。つい10年前まではグルメを自称するタイ人でも、大福餅の餅と、お正月の餅の区別がつかなかった。

タイのおやつにはモチモチしたものがいっぱいある。餅米とバナナを包んで蒸したお菓子や、ココナッツミルクの中に餅粉とタロイモで作った白玉ボールが浮いたブァローイブアックなどは誰でも好きなデザートだ。だから餅系は圧倒的にスイートの分野で使われ、マンガで見た網で焼くと膨れる日本の餅も、甘いと思ったのかもしれない。

しょうがない。大事にとってあったレトルトの袋を開け日本製の貴重な餅をふるまった。が、反応はなんだこれ?というもの「もう少し柔らかいのがいいなぁ~」といった。

正当な味にあくまでこだわる料理の世界がある。だが私は接点を見つけて異文化交流して出来上がった味も大好きだ。この歳になって気がついたのだが、味は時代とともに随分変わった。食の好みが大きくが変わっていく中で、こだわるべきは味ではなく、食材がいかに安全かつ生命力いっぱいのオーガニック農法で、環境に負荷をかけずサステナブルに作り続けていくことができるかに尽きると思う。

ああでもないこうでもないと餅の国際交流を考え続け、とうとう出来た。白玉の要領で茹でて餅を作ることにした。タイの餅粉は日本の餅粉と比べると米自体が柔らかいこともあり火の通りが早い。

人生はじめて、切り餅風、四角い白玉を作ってみた。なんだか粘土細工みたいで食べ物に思えなかったが、茹でると餅ほどの弾力はないにしても上品なモチモチ感は予想以上。形のマジックもあって、もう餅としか思えない。タイ人はこれぞ餅だと感激してくれ、私もこの暑さの中で食べる餅は、このぐらいあっさりしてもおいしいと思った。以来うちの餅は、高価な日本からの輸入品ではなく、タイの餅粉に玄米粉を混ぜて作る地消地産になってしまった。

焼けない餅を雑煮にするには、関西風にそのままスープの中で煮るしかない。野菜スープの中に、茹でてない四角い白玉餅をドボンとい入れ、火が通ったところでスープに味をつけた。汁はそれほど曇ることもなく、スープの旨みが染み込んだ餅はまさに雑煮だった。

気を良くして、きな粉餅と大根おろしのみぞれ餅も作った。タイ友の感想は「大根おろしは舌にザラザラ残ってイマイチだから千切りにしたらどうだろう」というものだった。なんて斬新な!ともかく日本の餅はタイ人にも愛され、進化しつづけている。

いきなり雑煮  4人前

【玄米餅】

  • 玄米粉:餅粉(白玉粉)1:9
  • 生温い湯(白玉粉だけの場合は水)
  • 塩   少々
  1. 玄米粉と餅粉、塩をあわせる
  2. お湯を入れて練り、四角く形作る

【根菜汁】

  • 根菜類   トータル100g
  • 昆布    5センチ
  • きのこ   適量
  • 水     4カップ
  • 醤油    大さじ3
  • 塩     小さじ1/2
  • 青み    茹でておく
  1. 根菜類は薄く切っておく
  2. 鍋に野菜、昆布、キノコ、水を入れ沸騰したらやや弱火で煮る
  3. 餅を入れ、浮いてきたら醤油と塩で味つける

*味が付いている汁に餅を後から入れることもできます

木幡恵プロフィール

20代でマクロビオティックに出合い、30代で雑穀に出合い、50代でタイに出会ってしまった料理クリエイター。ストイックだけど大胆、本気だけど本音であることがたいせつだと思っている。料理活動の場はバンコク。ベジを基本にアジアの調理法を盛り込んだ料理クラス「gaiatable」を主宰。

タイ語のマガジンHEALTH &CUISINEと日本語のタイ情報誌のDACOにレシピを連載中。
自身が企画した商品をヤムヤムから販売している。

■つぶつぶクッキング
■無発酵の雑穀パン
■雑穀つぶつぶクッキング
■おいしいマクロビィオテック (タイ語)
■タイの料理雑誌HEALTH&CUISINE(タイ語)
■タイのマガジンDACO 料理エッセイ「大地のめぐみ」(日本語)

★Gaia Table 南国食日記
http://gaiatable.com/diary/

★ヤムヤムホームページ
http://www.gaiatable.com/

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