「珍しい干し魚があるの。今から行くからいっしょに料理しない?」

タイ人の親友エイから電話が入った。私が魚を常食しないことを知っていながら、あえて魚というからには、よほどのモノに違いない。なんでもお粥といっしょに食べるというので、急遽、仕事も放り出して、米を洗い土鍋に入れて火にかけた。

タイで日常的に食べる魚料理といえば、方向性として2方向。ひとつは、つみれ系。グリーンカレーや麺に入れたり、揚げて辛いタイのさつま揚げトーッマン・プラーなどになる。

もうひとつは、塩を効かせて干した、今日これからお目にかかる「干し魚系」で、ツミレに比べて、存在がやや地味なのか、ここで暮らして料理してみないとその真価はわからない。

ひとくちに干し魚といっても、色々な魚種が使われ、塩の具合も違う。どこの海で取れたのか?魚種は何か?新鮮なうちに干したか?清潔な場所に干したか?ちゃんと中まで完全に塩が回っているか?と、タイ人は細かく情報収集してからじゃないと買わない。なんせ暑い国の動物性食品なのだから、塩をしたとはいえ、信用できるものしか口にしないのだ。

心境としては、荒巻鮭一本持って来るような心境だろうか。エイは最大の注意を払って長細い箱を持参した。それにしても、なんとカッコイイデザイン!

プラー・グラオと呼ばれるその干し魚は、長さ45㎝ほどで、カッチリ乾いた白銀のボディーを薄紙に包まれ、クラフトの箱の中に横たえていた。

タイ南部、マレーシアに近い東海岸ナラチワット付近で、この時期に獲れたものを、腹もひらかず、内臓を取り出し、取り出し口は赤い紙で封印し、天日干ししたものだ。地元では、作りはすれど口には入らぬ超高級品とのこと。王室ご用達品らしい。

ただでさえ手に入りにくいところに持ってきて、タイ南部は、今もイスラム市民との小競り合いがおさまらず、タイ人でもノー天気に、旅行できるところではない。今回は、エイの夫の教え子が住んでいるので、ご相伴にあずかれることになったが、珍しい上にもキチョーな巡り合わせの干し魚なのだ。

プラー・グラオは日本でも捕れる。日本名はツバメコノシロといい、ネットには神奈川県の三崎港で釣れて、刺身となった写真や、高知県で棒寿司になった写真が載っていた。漁獲高は少ないようだが、地元では、白身の魚で、身が締まっていると評判である。

まずは1センチ厚に切っていくのだけど、塩が効いた魚の身は固い。鏡餅を切るぐらいの力がいる。それにしても、ここまで塩が効いた干し魚なのに、タイでは、これでもかと、油で揚げ焼きにする。

私もケチなことはいってられない。とっておきのごま油の栓を切った。エイは、魚から小さな泡が出る程度の温度を保ちながら、表、裏、横と丁寧にひっくり返し渾身の注意力で取り組んでいる。

揚げ終わると、盛り付けながらこう言った。

「普通はね、この上に薬味をかけちゃうんだけど、パリッとしている方が美味しいから別にしたよ」

そうパリッとしていること、干し魚料理のポイントなのである。

炊きたての粥を一人一人の碗によそい、パリパリの魚の身を小さくほぐして香味をかけていただく。濃縮された魚の旨味が、粥の中に溶け出ていクゥ~。タンパク質もここまで来ると、チーズのように、鼻の中を行き来する柔らかな発酵臭となり、いやでも食欲がでる。

エイには90歳になる祖父がいる。彼の朝食は、何十年も粥と干し魚だそうだ。私とて、これがあれば、ずーっとタイで暮らせるかもと思うくらい、身に滲みるような懐かしさに襲われる。

レストランで干し魚を使ったメニューを見つければ、必ず注文するのが、カオパット・プラケーン、ようはチャーハンだ。日本に戻った折、一度クサヤでやってみたいと思いながら、その夢は叶っていないのだが、アジの開きで作ったことはある。身を大きく切り、揚げ焼きしてパリッとさせてから炒める合わせるとタイ風になる。

食卓で、ナンプラーに唐辛子を浮かべたプリックナンプラーと、ライムをかけると、スッキリとした辛味と酸味が魚の臭さを消しさり、上品なこれぞタイのおふくろの味が生まれる。

カオパット プラケーム 1人分

  • しょっぱいアジのひらき 半身
  • 青菜   50g
  • 玉ねぎ  1/4個
  • にんにく 1片分
  • ご飯  200g
  • 油  適量
  • レモン 1切れ
  • きゅうり 少々
  1. ひらきは、骨を外し大きめに切り、油で揚げにする
  2. フライパンで玉ねぎとニンニクを炒め、青菜とご飯を入れて炒め合わせる
  3. 最後に1の魚を入れて炒め、少量のナンプラーか塩で味付ける。
  4. 皿に盛り、きゅうりとレモンを添える。
  5. 小皿に、ナンプラーと輪切りにした唐辛子を浮かべる。

手作りプリックナンプラー

  • 王国のナンプラー 50cc
  • 唐辛子 4本

唐辛子は湯どうしして、ナンプラーに漬ける。

*タイではテーブルに置かれている調味料。ひと昔前は、何にもない時にはこれをご飯にかけて食べたそうです。

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木幡恵プロフィール

20代でマクロビオティックに出合い、30代で雑穀に出合い、50代でタイに出会ってしまった料理クリエイター。ストイックだけど大胆、本気だけど本音であることがたいせつだと思っている。料理活動の場はバンコク。ベジを基本にアジアの調理法を盛り込んだ料理クラス「gaiatable」を主宰。

タイ語のマガジンHEALTH &CUISINEと日本語のタイ情報誌のDACOにレシピを連載中。
自身が企画した商品をヤムヤムから販売している。

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■おいしいマクロビィオテック (タイ語)
■タイの料理雑誌HEALTH&CUISINE(タイ語)
■タイのマガジンDACO 料理エッセイ「大地のめぐみ」(日本語)

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