ずーっと昔に書いた黄色い表紙の「雑穀つぶつぶクッキング」にのっている料理写真は、実は私がぜーんぶ撮ったものだ。自分の料理教室で作ったものを、試食する前に撮っていたのだから、ある意味では迫力満点だが、あまりにつたなすぎ…その不備な写真を参考に果敢に雑穀料理を臨んでくれたみなさんには、なんと言ったらいいのかわからないほど深く感謝している。

タイで仕事をするようになってからは、もう私が一人奮闘することもなく、フードスタイリストが料理内容を把握し準備万端で撮影に臨めるようになった。タイ人のアート力は予想以上に繊細で素晴らしく、スタイリングの意味も基礎もしっかり理解した仕事ぶりに、不満だったことは一度もない。当時、若干28歳だった才能あるスタイリストは、今や料理学校ル・コルドン・ブルーバンコクでクラスを持つまでになっている。

優れたクリエイターと長年仕事を共にしたおかげで、私は門前の小僧なりに、スタイリングのコツがチョコッとわかるようになった。

料理を作る作業ばかりに追われていると盛り付けで精一杯。ましてや料理写真は「写っていればイイカァ?」となりがちだが、食べてしまえばなくなるものだけに写真にしてくことは大切かもしれない。

まず、同じ色の同じような形の地味な素材の時だ。カフェで出てきたタイのお菓子を使って、彼女が教えてくれたスタイリングの極意だ。

まず、表と裏が全然違うことを知らせるために数個を裏返した。白いペタンとした裏側がわかるとカステラではないことが判明、菓子の食感が絞られていく。

必ず使う楊枝を添える。これで突き刺して食べるのだ。もしタコ焼きだったら~私は迷わず楊枝をタコにぶち刺しているだろうが…彼女は考えた末に、楊枝は2本、皿の淵に置くことにした。楊枝があれば刺して食べることはわかり、2本おけばつつき合う楽しみも伝わる。すると不思議なことに、薄ピンクの丸い皿と、丸い菓子が作り出すマルマル感に目に飛び込んでくる。

「いいと思うなぁ~」と声をかけたが、まだ納得がいかないようでスマホで撮った画面を覗き込み、皿を机の木の目と平行に置き直した。「ハァ~そこまでこだわる」と最終写真を覗き込むと安定感が生まれていた。素朴な昔ながらの菓子らしい不動の強さみたいなものが加わっている。

この日、スタイリングは洒落たものを置くことではなく、理論的に整理して構成するものなのだと目がさめる思いだった。

ところがソレができない。このケーキは私が作ったもので、長細い型で焼いたところが気に入っていた。当然ながらレシピ完成にまでにはアアデモナイ、コウデモナイと試行錯誤を重ねたわけで、その熱い想いが邪魔をしてくる。スタイリングは冷静に考えていくことに尽きると思った失敗例をご覧ください。

チョコケーキ

小さく細いということを強調しようと小ぶりの皿にのせたがナンノコッチャ!皿が小さいことを知っているのは私だけで、写真を見る人に大きさ感はゼーンゼン伝わらない。

そこで大きさのわかる対象物を置こうと植物の下に持っていき、フォークを置いたが、いかにも付け足しという感じ漂い、ヘ~ン。

断腸の思いで、自慢の長細いケーキを一人分に切ると、やっと小さいことはわかるようになった。

疲れ果て、食べる前にケーキ型の大きさを忘れないようにと撮った、いわば資料写真でお見苦しくてゴメンナサイ。でも、型があることで偶然にも切る前の形を伝えている…。

こうして自分でやってみると、ますますスタイリングの力を感じるようになり、とうとうスタイリストの彼女に頼んでフードスタイリングクラスをすることにした。

その中から極意をいくつか紹介します。

鯉のぼり

これは背景を変えて画面が画期的に変わった忘れられない例である。クレープの鯉のぼりは下手をすると素人ぽさが全開して野暮に見えがちだが、個性的な花柄のクロスを敷くと、手作り感が洗練されて見える。お皿を目にした喜ぶ子供たちの顔まで浮かんでくるような気さえしてくる。

カレー

これもバックで変わった例である。カノムチンといい、麺にグリーンカレーをかけて食べるものである。大理石のテーブルのようなバックも冷たげで美しかったが、地図の上に置いてみる…するとどうだろう。食べ物から、次の旅行の計画を練っているかのようなウキウキした場面まで浮かんでくる。バックとして使用した布や1mほどのハギレだったり、包装紙なのに、その効果には目を見張った。

サラダのようなゴチャゴチャッとしたものも写真にするのは難しい。

このサラダの場合は千切り野菜に混ざっていたグリーンの葉を引っ張り出し、できるだけ上を向けて置いた。上を向けて!ここがポイントで、すると動きが出て千切りまで素敵に見えてくる。

こちらはシンプルに色を絞ることで切った野菜の形で表現してる。水々しい体に良さそうな美味さが伝わってくる。

紫キャベツの中にサラダを盛り込んでいる。こういう時はサラダの量を通常より増し、キャベツよりサラダが盛り上がっていることが基本だ。下の葡萄がなんともオシャレだが、実はキャベツが傾かないようストッパーの役目も果たしている。

スタイリングは自分の頭を整理する作業だ。どちらかといえば理詰めの世界で、感性ばかりではない。まず初心者は白い皿で試してほしい。

一枚の美味しい写真で、二度美味しい感動が味わえるって、食いしん坊にはたまりません。

アボガドチョコクリームのケーキ

  • アボガド 1個弱(約100g)レモン汁をかけておく
  • ココナッツシュガー 25g
  • ココア 15g
  • ココナッツオイル 35g ※温度が低く固まっている場合は湯煎
  • バニラエッセンス 小さじ1/2
  • シナモンパウダー 5から10振り位
  • 味噌 小さじ1/2
  • ラム酒 少々
  1. 全ての材料をプロセッサーに入れて、なめらかになるまでまわす。
  2. しぼり袋に入れて冷蔵庫に入れておく 15分
  3. ケーキに飾る

シンプルアップルケーキ(15×3.5センチ) 

  • 地粉 150g
  • ベーキングパウダー 小さじ2
  • ココナッツシュガー 20g
  • ココナッツオイル 30g
  • 豆乳 80g
  • リンゴシュース    100g
  • リンゴ  5ミリ角に切る
  • アーモンド 2~3個
  1. 粉類を全て合わせてふるう。
  2. ココナッツシュガー、オイル、豆乳、りんごジュースを合わせる。
  3. 1を2に入れ、リンゴとアーモンドもいれて、ムラなく混ぜ型に流す。
  4. オーブン180度で30分焼く。

木幡恵プロフィール

20代でマクロビオティックに出合い、30代で雑穀に出合い、50代でタイに出会ってしまった料理クリエイター。ストイックだけど大胆、本気だけど本音であることがたいせつだと思っている。料理活動の場はバンコク。ベジを基本にアジアの調理法を盛り込んだ料理クラス「gaiatable」を主宰。

タイ語のマガジンHEALTH &CUISINEと日本語のタイ情報誌のDACOにレシピを連載中。
自身が企画した商品をヤムヤムから販売している。

■つぶつぶクッキング
■無発酵の雑穀パン
■雑穀つぶつぶクッキング
■おいしいマクロビィオテック (タイ語)
■タイの料理雑誌HEALTH&CUISINE(タイ語)
■タイのマガジンDACO 料理エッセイ「大地のめぐみ」(日本語)

★Gaia Table 南国食日記
http://gaiatable.com/diary/

★ヤムヤムホームページ
http://www.gaiatable.com/

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