デパートの家電売り場で料理デモをするという仕事が来た。商品は日本製の炊飯器、『熱々モチモチの炊き上がり』を売り込みたいという。

日本人の料理家が少ない時代だったから、私に話が来たのだろうけど『日本の寿司がおうちでおいしく食べれる』というコンセプトに、果たして私が向いているのか?

「たしかに日本人ですけどぉ、寿司職人じゃないんですよ…」とやんわり断れば、

「いいんです、家庭の味で!」ときた。

「マクロビっていう穀物菜食の料理家なんですよ~」というと

「タイの人はサーモン好きなんで1つはサーモン入れて欲しいんですヨォ!でも1つは野菜って、いいアイディアですね!」

タイはちょうど、今年もベジタリアン習慣を迎え、スーパーでも商品の横に「斎」の旗がひるがえっている。菜食期間は年に1度の禊という意識があり、仏教的な精神的なことに結びついているので、ベジタリアンに対しても、この国ならではの寛容な理解がある。

しかしながら異文化はどこかずれる。私にとってはサーモン云々、マクロビ云々よりも、熱々ご飯が、寿司によって訴求されるところがワカンナ~イ。寿司がうまいと、熱々ご飯がうまいは、日本人的には全然違うんだもの。

「熱々のご飯が売りなら、卵がけご飯はどうでしょうか?」

と言ってみた。すると、担当者はみるみる怯え、

「えっ!タマゴ、生!危険!危険!人が死にますよ」

今でこそ、生卵を日本の朝食として知らないタイ人はいないが、ひとむかし前は正気の沙汰じゃなかったのだ。タイの卵料理は油でイヤというほど揚げてある。

「じゃ、おにぎりはいかがでしょう?」

「ご飯いっぱいの中に、チョッとおかずってのは~貧乏くさいなぁー」

とのこと。タイ人がそう感じるのだからしょうがない。結局、異文化の接点は太巻き寿司で落ち着いた。

当日がきた。タイ語もわからず、ただ売り場でニコニコしているのは辛いが、

「アロイ~(おいしい)」

と感激してくれたタイ人マダムが表れた。すかさずメーカー主任が説明を開始し、マダムは時々私を見ては、というか、私が日本人であることを確認してはフムフムと話を聞いている。無防備に試食して捕まっちゃって・・・気の毒に思っていたら、話は逆。何台買おうか迷っていたのだ。マダムは娘のとこと、自分と、実家の分と、炊飯器を3台買ってくれた。

タイマダムの買い物は、みなさん実にダイナミックだ。ドライブ中も街道に並ぶ露天にスリスリと車を寄せ、窓を開けて味をみるのは毎度のこと。「合格!」となれば、20個は入っているフルーツを4袋も5袋も買う。私も3個、欲しかったが、なんだか言い出せなかった。

塩も20キロ買った。タイの屋外の塩田では乾期しか塩作りはできない。このチャンスしかないのはわかるが…

ココナッツの殻が山積みの村に寄った時は、作りたてのココナツシュガーを全量買った。ココナッツシュガーは生産工程で白砂糖を入れたものもあり、この目で見た本物となれば、ともかく買いらしい。

日本の2倍はある巨大カボチャは1個60円。1/4個下さいなんて言えないし、さりとて夫と二人、食べきる自信はなく、パスした。

しかし私も郷に入ればなんとかで、ずいぶんまとめ買いをするようになった。ともかく「これはイイぞ」となったら即、買うことが、安定流通に若干ムラがあるタイでは、旨くて、安全な食卓に繋がるのだ。

このごま油は低温圧搾の白ごま油なのだが、どういうわけか都会のスーパーにはない。この油で野菜を揚げると油っぽさがなく、ほんのりと甘いから料理クラスの生徒さんたちはみんな欲しがる。なので出かけた折にお節介にも、まとめて買ってくるのだ。

小麦粉もバンコク唯一のオーガニックパン屋さんから、オーガニック認証がついた小麦粉をまとめて買ってくる。

米はピチット地方のオーガニック認証タイ玄米と白米を年2回、ガーンと買っている。
まとめて買ったものは、もちろん日々に使うのだが、ご贈答用にもいいと気がついた。何と言っても味にもクオリティーにも自信があるのだもの。タイマダムのまとめ買いもなかなか合理的だ。

話は違うが、先日、「イカの塩辛が食べたい」と言う夫の要望を叶えようと、カオマーク(タイの甘酒)とナンプラーでそれらしきものを作ってみた。珍味系はどれも添加物が気になるが、黒米のカオマークなので見た目もそれらしく、添加物も砂糖不使用も難なくクリアー。それにタイのイカはワタが小さくて塩辛は作れないと言う長年の悩みも解決した。上品な発酵の甘みと熟成の風味をまとった小さなおかずは、熱々のご飯がいつもに増してうれしい。熱々のご飯はやっぱコレです。

ナンプラーとカオマークの沖漬け

  • カオマーク 大さじ3
  • ナンプラー 大さじ2
  • チリ 1/2本
  • 白こんにゃく 1枚
  1. こんにゃくはイカに見立て、塩辛のように切り、よく湯がき、ザルにあげる。
  2. カオマークとナンプラーを混ぜ合わせた中に1を入れ、チリを入れる。

※すぐから食べれます。1日置くと、ますます塩辛風味に。目をつぶって召し上がれ。

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二年熟成発酵『王国のナンプラー』

「王国のナンプラー」は砂糖を一切使っていません。甘味はご自分のお好みに応じてお使いいただけます。砂糖を使わずに丸みのある香りと濃くを生み出すには、長いの時間をかけた熟成発酵が必要で、「王国のナンプラー」は二年の熟成発酵期間から生まれた本物の旨みです。魚臭はほどよく抑えられ、深い濃くがタイ料理の伝統の味を作り出します。材料となる魚はカタクチイワシのみを丸ごとを使用。バランスのとれた旨味の一滴を作るため、材料は毎回厳しく吟味しています。添加剤や防腐剤は一切使っていません。

原料:カタクチイワシ・塩
内容量:200ml
原産国:タイ
小売価格:600円(税抜)

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木幡恵プロフィール

20代でマクロビオティックに出合い、30代で雑穀に出合い、50代でタイに出会ってしまった料理クリエイター。ストイックだけど大胆、本気だけど本音であることがたいせつだと思っている。料理活動の場はバンコク。ベジを基本にアジアの調理法を盛り込んだ料理クラス「gaiatable」を主宰。

タイ語のマガジンHEALTH &CUISINEと日本語のタイ情報誌のDACOにレシピを連載中。
自身が企画した商品をヤムヤムから販売している。

■つぶつぶクッキング
■無発酵の雑穀パン
■雑穀つぶつぶクッキング
■おいしいマクロビィオテック (タイ語)
■タイの料理雑誌HEALTH&CUISINE(タイ語)
■タイのマガジンDACO 料理エッセイ「大地のめぐみ」(日本語)

★Gaia Table 南国食日記
http://gaiatable.com/diary/

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