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つい先日までタイでは菜食週間だった。タイ語では「ギンジェー」という。太陰暦の9月1日から9日間ということで、太陽暦に直すと毎年微妙に日がずれて、今年は9月末から10月にかけてだった。

「ギンジェー」の季節が来ると、町中の食品を扱う店の前やレストランの看板に黄色い小さな小旗がはためき出す。デパートの食品売り場は昨日まで売っていたお肉のお惣菜を片隅に押しやり、野菜100パーセントの中華料理やタイ料理の大皿を前面に並べ、コンビニのカップラーメンの棚にもベジタリアン仕様のラーメンが積まれる。

高級ホテルのレストランでも今月のメニューにシェフおすすめの精進料理がコースで組まれる。タイに関係ないイタリアン料理店だってベジメニューの一つや二つ用意している。もちろん屋台も通常の鳥のスープだのほかに野菜スープも用意して頑張る。ソムタムも小エビを使うところをゴマをつかったバージョンが登場する。この時期、食の世界は「斎」を無視するわけにはいかないのだ。日本では考えられないがアジアの西の片隅では、クリスマス商戦さながらの熾烈なギンジェー商戦が展開されているのである。

黄色い旗にはタイ文字で「ギンジェー」と書かれているが、どういうわけか漢字で「斎」とも印刷されている。ギンジェーはその昔、プーケットに移住してきた中華系の人たちが持ち込んだ習慣だそうだ。だが、なんで菜食なのか?という肝心なところはどうもはっきりしない。徳を積むため?カルマを回避するため?と諸説ある。

タイでは今も仏教が生きている。老若男女、自分を心身ともに浄化して徳を積みたいという思いがあるのだ。そしてそこに菜食の役目がある。日本には食を制限する日はない。精神は精神、肉体は肉体としての取り組む。だがここでは、いつもは肉魚を気にせず食べてる若いタイ人が「今日は尊敬する高僧が亡くなった日だから私も菜食にしてるんだ」とか、もっと激しい時は「絶食してるの」なんてことを言う。菜食は病気や美容といった現世利益のためだけではないようだ。

タイの菜食は肉体も精神も同時にリフレッシュをはかるための方法だ。一見、厳しい取り組みに感じるが、行事のたびに自己を見直す機会は巡ってくるわけだから、流されやすい人間にとってやさしいシステムとも思える。ギンジェーは今風に言えば、身も心も節制して自分をリセットする数日なのである。

「キンジェー」は、私の人生にも思いがけない出会いを運んできた。タイ人は私の作る雑穀や野菜、グルテンミートのマクロビ料理を「おもろい」「おいしい」とはじめからなんの抵抗もなく受け入れた。当時は新しもの好きだからだと思っていたが、考えてみれば「菜食の下地」があったからにほかならない。私のマクロビ料理は「和食や洋食のギンジェー料理を家庭で作っちゃおう」という提案に聞こえたのだ。だから「なぜ菜食なの?」というところをすっ飛ばして、まんまと市民権を得てしまい、デパートで販売することにもなった。日本ではなんでモドキを食べなきゃいけないんだと言われ続けきたのに、ここでは誰もそんな質問はしない。肩の力が抜けた。

タイには菜食用の食材がたくさん販売されている。湯葉や豆腐などシンプルなものから、未だ食べたことにないものまである。冷蔵品としてはソーセージ、鶏肉、鴨肉。魚介もアワビ、フッシュボール、イカとある。これらはこんにゃく粉、大豆粉、小麦グルテン粉からできていて、それらを独自に配合して食感に命をかけた力作もあれば、最近は化学調味料を一切使っていないというものにも出会えるようになった。

乾燥したベジミートはこちらである。

高野豆腐がないここでは保存が効く大豆の乾物として重宝している。色々なメーカーがあり、形も大型のカツにでもなりそうなものから細切り肉風、ひき肉風まである。

ひき肉風は濃厚なトマトソースなどで煮込むと、肉を使ってないとは気がつかないほどの旨みを出してくる。動物性の旨味の陰に隠れてしまう植物性の旨味も、単独で味わうとがぜん存在感を発揮する。

私がたまに食べたくなるのはベジミートを漬け込んだ焼き肉である。友達が仕込んだ手作りビールを飲みながらの一人焼き肉はなかなかである。最後に玄米汁麺を作りトッピングに焼き肉を置くと、もう言うことなしだ。

バンコクには常設のベジレストランが増えた。タイのテーストをとり入れながらのビーガンであったりスローフードだったりと、個性的なメニューを展開している。モドキと言われた世界が食の新しい可能性を生み出している。

ベジミートの焼肉風

  • 大豆ミート   干30g

A

  • 味噌        大さじ1
  • タマリンド※    小さじ1
  • みりん       大さじ1/2
  • ごま油       大さじ1
  • ニンニク      2かけ
  • 長ネギ       みじん5センチ
  1. グルテンミートは熱湯で戻し、2度ほど水をかえて絞る。
  2. Aの材料を合わせる
  3. 1を薄くスライスし、2に揉み込む
  4. フライパンに多めの油を入れて焼く

※タマリンドはタイの果物のペーストです。ないときは入れなくて大丈夫ですが、酸味があるジャムみたいなものなのであるもので工夫してください。

木幡恵プロフィール

20代でマクロビオティックに出合い、30代で雑穀に出合い、50代でタイに出会ってしまった料理クリエイター。ストイックだけど大胆、本気だけど本音であることがたいせつだと思っている。料理活動の場はバンコク。ベジを基本にアジアの調理法を盛り込んだ料理クラス「gaiatable」を主宰。

タイ語のマガジンHEALTH &CUISINEと日本語のタイ情報誌のDACOにレシピを連載中。
自身が企画した商品をヤムヤムから販売している。

■つぶつぶクッキング
■無発酵の雑穀パン
■雑穀つぶつぶクッキング
■おいしいマクロビィオテック (タイ語)
■タイの料理雑誌HEALTH&CUISINE(タイ語)
■タイのマガジンDACO 料理エッセイ「大地のめぐみ」(日本語)

★Gaia Table 南国食日記
http://gaiatable.com/diary/

★ヤムヤムホームページ
http://www.gaiatable.com/