タイではトムヤムという名前のスープをよく飲む。日本でいう味噌汁みたいなもので必ず食卓に出てくる汁物である。トムは煮る、ヤムは酸味という意味で、クンと続けば「エビ入りの酸味のきいたスープ」という意味だ。私の好きなきのこバージョンだと「トムヤムヘッド」となる。
町で食べるトムヤムスープは必ずといっていいほどココナッツが入っているが、家庭では澄んだスープで飲むことが多い。タイ人の主婦感覚としてはボリュームを出したい時にココナッツミルクを入れるが、毎日入れてたら太ってしまうそうだ。
スープを作るところに居合わせたことがある。まず鍋に水を入れてハーブを投げ込み、水に香りをうつすことからはじまる。稲の茎みたいなレモングラスは大きく斜めに切って、緑のコブミカンの葉もそのままでポイと入れる。鍋の中は、さながら嵐の後の葉の散った池のような状態になるのだが、気にせずそのまま加熱。煮立ってからエビなどの具を入れてダシをとり、味をつけるという手順になる。ハーブの香りを水にうつすという料理法はタイではよくする行程で、花の香りをうつしたお菓子やお粥まである。
レモングラスはその名のとおりレモンの香りがするハーブだが、香りは酸っぱくとも、柑橘とは違って、レモングラス自体にはまったく酸っぱくない。なのにその芳香の成分が肉や魚の臭みを消したり、胃腸の働きを助けるといった効能を持っている、まさに薬草なのである。
いろいろな料理に使われるレモングラスだが、スープに浮かんでいるレモングラスはあくまで食材の臭みを調和させたり、消化を助けるためのもので、食べたりはしない。だいたいタイ人は具もあまり食べずにスープだけを飲む。だから食べ終わったお椀にハーブの残骸が残っていようとも気にする必要はないのである。
薄く小口に切ったレモングラスがサラダに入っている場合がある。これは食べる。断面は薄紫色で幾十もの輪が美しい模様を作っている。大葉やミョウガと同じ薬味の感覚である。今や私も大葉やネギと差別することなくレモングラスを使っているが、茎の下から10センチぐらいまでの比較的柔らかい部分のみを使う。和食からサラダまで、なんにでもよく合い、涼やかでエキゾチックな香りがプラスされる。
薬味はつらいかな~という方には、炊込みごはんをお薦めする。ごはんが炊きあがったら炊飯器の蓋を開け、レモングラスをポイと入れておけばいいのだ。レモンの香りがごはんにほどよく移って、真夏でも不思議に箸がすすむ。これこそ南国ハーブの底力!暑さに負けそうになたら、この夏、ぜひ思い出してほしい。
いい忘れたが、もちろんバンコクには、オーガニックマークがついたレモングラスも売られている。
レモングラスとゴボウの炊き込みごはん
- 白米 2合
- 雑穀 大さじ1
- きのこ ほぐす 50g
- ごぼう 斜め小口切り 1/2本
- 油 大さじ1
- 醤油 スープスプーン2/3
- 塩 ティースプーン2/3
- レモングラス 3cmの斜め切り 2~3本
- ごぼうを油で炒めキノコを入れて火を止める
- 研いだ白米と水を、炊飯器にいつもどうり水加減する
- 1を入れ、醤油と塩を入れ、さっと混ぜて炊飯する
- 炊きあがったらレモングラスを入れて蒸らす
*長い時間、保温する時はレモングラスはとりだす
木幡恵プロフィール
20代でマクロビオティックに出合い、30代で雑穀に出合い、50代でタイに出会ってしまった料理クリエイター。ストイックだけど大胆、本気だけど本音であることがたいせつだと思っている。料理活動の場はバンコク。ベジを基本にアジアの調理法を盛り込んだ料理クラス「gaiatable」を主宰。
タイ語のマガジンHEALTH &CUISINEと日本語のタイ情報誌のDACOにレシピを連載中。
自身が企画した商品をヤムヤムから販売している。
■つぶつぶクッキング
■無発酵の雑穀パン
■雑穀つぶつぶクッキング
■おいしいマクロビィオテック (タイ語)
■タイの料理雑誌HEALTH&CUISINE(タイ語)
■タイのマガジンDACO 料理エッセイ「大地のめぐみ」(日本語)
★Gaia Table 南国食日記
http://gaiatable.com/diary/
★ヤムヤムホームページ
http://www.gaiatable.com/