買い物に出るのが面倒だなと思ったらパソコンでクリック、スマートフォンでタップ。そんな便利な時代になり、ネットショッピングの利用率は年々増加しています。

ドイツのデジタル協会「bitkom」が14歳以上のインターネットユーザーを対象に実施した調査(2019年)によると、過去一年間にインターネットで買い物をしたことがあると答えた人は全体の98%にもおよびました。ところが食品に限定して過去に購入経験があるかどうか質問したところ、その割合はわずか29%という結果になりました。2年間の調査では28%だったため、ほぼ変化をしていないことがわかります。

大きなポテンシャルを秘めたネットショッピングの世界で食品分野も新たな市場を広げることができるのか。今回はオーガニック業界において小売各社の試みを、ドイツの宅配事情を折り込みながら紹介したいと思います。

一手を指したアマゾン

まずはインターネットの巨人、アマゾンの動きから。米オーガニックスーパー大手のホールフーズマーケットを買収したのは2017年のこと。実は同年、ドイツにおいては業界4位の老舗オーガニックスーパー「basic(ベーシック)」との提携を発表。ベルリンとミュンヘンの2都市において、日本でもおなじみの「アマゾンフレッシュ」と「プライムナウ」サービスを通じてベーシックの取り扱い製品を販売するというものでした。しかしこの提携は一年弱であっさりと解消。アマゾンは今年の1月よりホールフーズマーケットのPB「Whole Foods Market」の販売を開始しました。

アマゾンに出品されているホールフーズマーケットのPB製品

現状の取扱製品はナッツやドライフルーツ、クスクスなどの穀物のみで合計17点。オーガニック業界情報サイト「bio-markt.info」は今回の参入について“業界内で驚きは少ない”、“成功とは言えない”と一刀両断しています。

オーガニックスーパーが軒を連ねる中、実店舗を持たないホールフーズマーケットのブランドをどう売り込んでいくか、出方を伺っているといった印象です。

模索を続けるベーシック

一方、アマゾンから退いたベーシックも今年、新たなスタートを切りました。

今回のパートナーは独スーパーマーケット大手「EDEKA(エデカ)」の子会社で、エデカのオンラインスーパーを運営する「Bringmeister(ブリングマイスター)」。元々、エデカ実店舗でベーシックのPB製品が販売されており、実店舗さながらにオンラインスーパーでも購入できるようになったのです。

取扱製品は常温品のみで、198点。ベーシックは自社運営のオンラインショップを閉鎖した苦い過去もあり、他社プラットフォームを利用することでリスクを減らし、販売拡大を狙っているようです。

出典:エデカ

ブリングマイスターの配送地域はベルリン、ミュンヘンの2都市限定ですが、生鮮からグローサリー、冷凍食品までエデカの品揃えをほぼ網羅しています。取扱品目は15,000点、その内、オーガニック食品が2,000点(内、ベーシックPB製品は常温加工品のみ198点)もそろい、オンラインスーパーの中では突出した数字となっています。

【ブリングマイスターの特徴】
・配達は月曜日~土曜日の6時~24時
・即日配達可能
・注文時に1、2、4時間後の配達時間を指定可能
・日時によって配達料0.00€~6.99€が発生
・注文金額40€から

多角展開のアルナトゥラ

ベーシックよりも一足早く2018年に前述のブリングマイスターと提携を始めていたのが業界第2位のオーガニックスーパー「Alnatura(アルナトゥラ)」です。知名度とPB製品数を武器に積極的に他社への卸販売を行っており、ブリングマイスターでも冷蔵食品を含む989点を販売しています。

それとは別に2015年からは自社のオンラインショップを開設。サイト運営や発送業務などはドイツの総合食品オンラインショップを運営する「Gourmondo(グルモンド)」に委託しています。PBやメーカー製品を中心に食品からコスメ、雑貨まで900点がそろいますが、取り扱っているのは常温品のみ。と言うのも配送範囲がドイツ全土のため、宅配便業者を利用。鮮度管理のリスクが少ない常温品に特化することで、ロスや注文の煩雑さを防ぐ狙いがあるのでしょう。

アルナトゥラオンラインショップのスタート画面

【アルナトゥラオンラインショップの特徴】
・ドイツ郵便(DHL)での配送
※ゼロエミッションを目指す「GOGREEN」プログラムを利用している
・注文時の時間指定はなく、DHLの配送次第(ドイツでは一般的)
・注文金額25€から
・送料一律5.9€(49€から送料無料)
・包装資材削減、必要以上のプラスチック緩衝材は使用しない方針

アルナトゥラオンラインショップ注文品。紙製の梱包材を使用するなどエコロジカルにも配慮されている。

その他のオーガニックスーパーでは、業界3位の「BIO COMPANY(ビオカンパニー)」がベーシックと同様に、他社オンラインスーパーにてPB製品を販売。業界1位の「denn’s Biomarkt(デンズビオマルクト)」に至っては卸販売のみで消費者向けオンライン販売には手を出していません。

ローカルに根付く宅配サービス

オーガニックスーパーのオンライン販売が控えめな理由として、地域に根付いたオーガニック野菜の宅配サービスが支持を集めていることがあげられます。これは地元でとれた新鮮な野菜や果物を詰め合わせた“オーガニックボックス”を自宅まで届けてもらうサービスです。地域や業者によって宅配サービスの内容には差がありますが、一例としてここでは現在私が住んでいるボーフム市でサービスを提供している宅配業者について説明します。

「Flotte Karotte(フロッテカロッテ)」は市内唯一のオーガニックボックス宅配業者。野菜や果物、乳製品、卵、精肉、パンなど生鮮食品が中心で、100%オーガニックです。200km圏内のオーガニック農家10軒と契約。受注、梱包、配送まで一貫して自社運営しています。

フロッテカロッテのホームページ

【フロッテカロッテの特徴】
・配達地域は周辺40km圏内
・配達日は月曜日~金曜日
※配達日時は配送ルートによって業者が指定
・玄関前や隣人、勤務先など必要に応じて届け先を指定可能
・デポジット10ユーロの通い箱を使用
・配達料は一律2.95ユーロ

フロッテカロッテ注文品。玄関前に置いておいてもらえる

お試しボックス(25ユーロ)には野菜、果物を中心に卵や乳製品までがセットになっている

日本に比べると配達日時の融通がきかなかったり、通い箱を配達の度に用意しておかなければならないなど不便とも言える点もあります。しかし地産地消である、物流コストが抑えられる、梱包資材も必要ないなど環境への配慮がなされていることも人気の理由なのでしょう。

コラムの冒頭に書いたように、今のところはネットショッピングの数字に大きくつながってはいないようです。しかしオーガニックとローカルの需要の高まりとともにこのような宅配サービスがさらに成長することは間違いありません。日本は山間部が多く、物流に時間もコストもかかってしまうため、地域ごとのオーガニック消費を活性化する宅配サービスが主流になるのは望ましい姿ではないでしょうか?

この記事を書いた人

神木桃子(こうぎももこ)

オーガニックとローカルをテーマに食の魅力を探求し続けるレポーター。オーガニック専門店を運営する会社にて販売・バイヤー職に、地域産品のコンサルや販売を行う会社にて営業・バイヤー職に従事し、商品企画から流通、販売まで幅広い経験を積む。2014年秋からドイツ在住。